大阪高等裁判所 平成11年(ネ)216号 判決 1999年9月29日
大阪府堺市<以下省略>
控訴人
X
右訴訟代理人弁護士
関根幹雄
同
伴純之介
東京都中央区<以下省略>
被控訴人
野村證券株式会社
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
辰野久夫
右訴訟復代理人弁護士
尾崎雅俊
主文
一 原判決中控訴人に関する部分を次のとおり変更する。
二 被控訴人は、控訴人に対し、四六四万三八九〇円及びこれに対する平成五年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 控訴人のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、当審において生じた部分及び原審において控訴人と被控訴人との間に生じた部分を五分し、その四を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。
五 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決中控訴人に関する部分を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、二一七二万二三〇三円及びこれに対する平成三年四月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二事案の概要
一 本件は、控訴人が、証券会社である被控訴人の従業員の違法な勧誘によりワラントを購入し損害を被ったとして、被控訴人に対し、民法七一五条の使用者責任に基づき、損害賠償を請求した事案である。
二 争いのない事実及び争点(当事者の主張を含む。)は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄一、二項中控訴人関係部分(四頁七行目から七頁三行目までと九頁七行目から一六頁末行まで)記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、文中「原告X」とあるを「控訴人」と、「被告」とあるを「被控訴人」とそれぞれ読み替える。)。
1 六頁三行目の「購入した」の次に「(以下「本件丸井ワラント」ともいう。)」を、九行目の「三菱金属」の次に「(現三菱マテリアル。以下同じ。)」を各付加し、同行の「東京海上」を「東京海上火災」と、一〇行目の「京王電鉄」を「京王帝都電鉄」と、同行の「キリンビール」を「麒麟麦酒」と、同行から末行の「三菱重工」を「三菱重工業」と各訂正し、七頁初行の「購入した」の次に「(以下「本件一〇銘柄ワラント」と総称する。)」を付加する。
2 一〇頁末行の「継続させた。」の次に「また、Bの次の担当者であるCは、ワラントの危険性について全く説明していない。」を付加する。
3 一一頁八行目の「ハイリスク」の次に「、」を付加する。
4 一二頁初行の「説明しており、」を「説明している。さらに、Bは、同年六月五日、控訴人に電話して、大和ハウス工業ワラントの勧誘を行った際、再度右と同様の説明をした。これにより、」を、六行目の冒頭に「証券会社が顧客に株価変動等に関する断定的判断を提供することは、証券取引法五〇条一項一号(本件当時)において禁止されている。しかるに、」を各付加する。
5 一三頁九行目の冒頭に「証券会社が証券取引に関し、虚偽の表示をし又は重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をすることは、証券取引法五〇条一項五号(本件当時)に基づく証券会社の健全性の準則等に関する省令一条一号(本件当時)により禁止され、また、証券取引について誤解を生じさせないために必要な重要な事実の表示が欠けている文書その他の表示を使用することは、証券取引法五八条二号(本件当時)により禁止されている。しかるに、」を付加する。
6 一五頁五行目の「不法行為」の次に「(前記の違法な勧誘行為)」を付加する。
7 一六頁三行目の「ユニデン」から五行目の「ワラント」までを「本件一〇銘柄ワラント」と訂正する。
第三証拠
証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四当裁判所の判断
一 本件取引の経緯は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」欄一1項(二二頁二行目から三九頁二行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、文中「原告」、「原告X」、「原告X」とあるを「控訴人」と、「被告」とあるを「被控訴人」と、「別紙」とあるを「原判決添付別紙」とそれぞれ読み替える。)。
1 二四頁初行の「取引をした」の次に「(ただし、同年一二月の二回の取引は、控訴人が被控訴人大阪支店で購入した投資信託の取引である。)」を、四行目の「上げていた。」の次に「なお、控訴人は、信用取引は行っていなかった。」を各付加し、一〇行目から二五頁初行までを削除する。
2 二五頁六行目から九行目までを次のとおり訂正する。
「 Bは、控訴人に対し、要旨、ワラントとは、新株引受権付社債から分離された新株引受権のことで、一定の行使期間内に一定の価格で新株を引き受ける権利であること、ワラント価格は、株価と連動するが、株価に比べて価格変動は数倍も大きく、ハイリターンであること、価格は新聞に掲載されないので支店に問い合わせてもらう旨の説明をしたが、ワラントの有利性を強調する内容で危険性については特に説明しなかった。控訴人は、それまでワラントについての知識や取引経験がなく、右説明を受けても十分に理解することができず、ワラントは、社債の一種であり、ハイリターンの有利な商品であるとの認識の下、大和ハウス工業ワラント八〇単位を購入することにした。」
3 二六頁八行目の「受けた。」の次に次のとおり付加する。
「 なお、右ワラント取引説明書は、図解入りでワラントの特徴と仕組みについて説明したものであり、ワラントの危険性については、『ワラント投資の魅力』の項に『ハイリスク、ハイリターンのワラント投資』という小見出しがあり、その中で『ワラントが株式の数倍の速さで動くということがワラントの最大の特徴です。値上がりも値下がりも株式の数倍の速さで動くことになるからです。値上がりすればハイ・リターン、値下がりすればハイ・リスクになることになります。』、『株式を売買するよりも少額のご資金で、株式に投資した場合と同等以上の利益を上げることも可能です。反面、値下がりも激しく、場合によっては投資金額の全額を失うこともあります。』、『ワラントには権利行使の期限があり、権利行使期間が終了した時にはその価値を失います。』との記載がある。」
4 二七頁四行目の「交付するとともに、」から五行目末尾までを「交付した。」と、八行目の「送金した。」を「送金し、その後、被控訴人から、『コウシキゲン 5・6・1』とワラントの行使期限が記載された同月一九日付けの預り証を受け取った。」と各訂正する。
5 二九頁初行の「エアバック」を「エアバッグ」と訂正し、七行目の「その後、」の次に「『コウシキゲン 5・7・27』と」を付加し、末行の「その際、」を「そのころ、」と訂正する。
6 三一頁二行目の「現在三四〇〇円の単価であるが、」を「現在の株価は三四〇〇円であるが、」と訂正し、四行目の「勧誘した。」の次に「その際、Cは、控訴人がそれまでにワラントを購入する等してワラントについてよく知っているものと考え、ワラントの説明はしなかった。」を付加し、九行目の「行使期限を記載した」を「『コウシキゲン 5・12・7』と行使期限が記載された」と訂正する。
7 三二頁五行目の「遅くとも」から七行目の「なった。」までを「平成元年五月から市場性の高い代表的な銘柄の外貨建ワラントの店頭気配値が日本経済新聞等に掲載されるようになった。」と訂正する。
8 三三頁六行目の「説明」の次に「や以前に受け取っていたワラント取引説明書に記載された説明」を付加し、九行目の「計算方法」から三四頁四行目までを次のとおり訂正する。
「計算方法や損が出た理由について尋ねた。控訴人は、その後連絡の取れたCに対しても事情説明を求めたが、Cは、損が出たことを謝り、損を取り戻すにはワラントを買い増しして儲けるしかない旨述べた。なお、控訴人は、送付されてきた同年五月三一日付けの「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」により、丸井ワラントの時価評価損が四五九万五五〇〇円とやや持ち直したことを知った。」
9 三四頁五行目の「その後」から七行目の「ところ、」までを「その後、湾岸戦争の影響で相場の先行きが不透明なこともあって、控訴人は、平成二年七月から平成三年一月まで株取引を控えていたが、その間に送付されてきた外貨建ワラント時価評価のお知らせに記載された丸井ワラントの時価評価損は、平成二年八月三一日時点で八〇七万九四〇〇円、同年一一月三〇日時点で一〇一七万七六五〇円であり、平成三年二月二八日時点では一一六〇万一四五〇円となっていた。」と訂正する。
10 三六頁七行目の「預り証」の次に「(この点、従前の預り証の様式と異なっており、分かりやすくなっている。)」を付加する。
11 三九頁二行目の次に改行して次のとおり付加する。
「 そして、控訴人は、丸井ワラント及び本件一〇銘柄ワラントにつき、売却あるいは権利行使をすることなく推移し、権利行使期間が経過した。
2 証人Bは、平成元年三月ころ、b社の事務所を訪問し、控訴人に対し、ワラント取引説明書及び株価とワラントの価格の推移をグラフ化したチャートを示してワラントについて説明し、大林組のワラントを勧めたが断られ、その後同年六月五日に電話で大和ハウス工業のワラントを勧誘したと証言し、Bの陳述書である乙A第七号証にも同旨の記載がある。
しかしながら、被控訴人は、当初平成五年一二月二日付け準備書面において、Bが平成元年六月五日にb社の事務所を訪問し、控訴人に対し、ワラント取引説明書を示してワラントについて説明し、大和ハウス工業のワラントを勧めたと主張していたものであり、これに対し、控訴人が平成六年二月三日付け準備書面において、Bとは一度も直接会ったことはなく、平成元年六月五日も電話での勧誘であったと反論し、さらに、同年四月七日付け準備書面において、Bが平成元年六月五日にb社を訪問した際に、控訴人に交付したと主張する書面が乙A第一号証ないし第三号証であるかと釈明したのに対し、被控訴人は、そのとおりであると回答していたにもかかわらず、Bが証言する直前の平成六年一二月一四日付け準備書面において、Bの前記証言と同旨の主張をするに至ったものである。Bが控訴人に直接会ってワラントの説明をしたかどうかは重要な点であり、しかも控訴人が反論をしているのであるから、被控訴人は、右の点について慎重に検討したはずであるのに、一年後に特段の理由を示すことなく主張を変更したその経緯には不自然なものがあるといわざるを得ない。
この点につき、証人Bは、平成元年六月五日の前に控訴人と会ってワラントを勧誘したが断られたことを思い出したと証言するが、訪問先、日時、場所等のメモは作成していないというのであり、裏付けとなる客観的証拠はなく、また、証言時まで年数が経っているとはいえ控訴人の顔を覚えておらず、控訴人に示したというチャートの内容についての証言も後日訂正する等記憶が不確かであることが窺われ、控訴人やその妻Eが右B証言を否定する供述をしていること等に照らすと、前記B証言及び乙A第七号証の記載は直ちに採用できず、結局Bが平成元年三月にb社の事務所を訪問した事実は認められないというべきである。
また、証人Bは、控訴人に対し、ワラントの仕組みや危険性について具体的に説明したと証言し、乙A第七号証にも同旨の記載があるが、控訴人は、前記認定のとおり、比較的安全性の高い投資信託や債券取引には関心を示さず、株式の現物取引(短期売買)を行っていたものであるが、より危険性の高い信用取引には手を出しておらず、投資額も二〇〇〇万円程度までと決めていたもので、一面慎重な面も窺え、また、自己の判断で取引銘柄を選ぶことが多く、被控訴人担当者の勧誘を断ることもあったのであるから、Bからワラントの危険性について具体的な説明を受けたとすると、株式の現物取引しかしていなかった控訴人がその場で取引に応じるとは考え難く、ハイリターンを強調した勧誘がされたことは十分あり得ることであって、前述したとおり、Bの説明が電話によるものであり、ワラント取引説明書も示していないことをも併せ考慮すると、右B証言及び乙A第七号証の記載も直ちに採用できない。
他方、控訴人は、平成元年六月五日、Bから、大和ハウスが社債を発行するので取っておこうかといわれた、ワラントという言葉は聞いていない等と供述するが、控訴人は、同月七日ころ、ワラント取引説明書や外国証券取引口座設定約諾書等の送付を受けながら何ら異議を述べていないことや前記B証言等に照らすと、直ちに採用できない。
また、控訴人は、平成二年三月、Gからワラント取引説明書を送ると言われて送ってきたのが甲A第三号証であり、送られてきたときには、同説明書末尾のワラント取引に関する確認書は既に切り取られていたと供述し、甲A第四号証にも同旨の記載がある。しかし、被控訴人が右確認書部分をわざわざ切り取って送付するということ自体が不自然であるうえ、ワラント取引説明書にワラント取引に関する確認書が綴じられている状態のときは、その左端に不動文字で『きりとり線』という文字と破線が記載されているところ、甲A第三号証の切り取り跡と平成元年六月五日付けで被控訴人に提出されたワラント取引に関する確認書(乙A二)の切り取り跡を合わせると、右『きりとり線』という文字と破線が合致することが認められることに照らすと、控訴人の右供述は採用できず、前認定のとおり、甲A第三号証のワラント取引説明書は、平成元年六月七日ころに送付されてきたことが認められる。」
二 ワラントの意義及び特徴等(甲八、一一ないし一三、甲A二、三、乙三及び弁論の全趣旨により認める。)
1 ワラント債は、社債発行会社の新株を引き受ける権利(新株引受権=ワラント)の付いた社債のことであり、これには、ワラント部分を社債部分と切り離して売買できる分離型ワラント債と切り離しては売買できない非分離型ワラント債とがある。
2 ワラント債は、昭和五六年の商法改正により同年一二月から発行されるようになったが、分離型のものは、日本の証券市場でなじみがなく、また、価格変動が激しくなる可能性が強いという理由から、業界の自主ルールにより当分の間取り扱わないとされ、ようやく昭和六〇年一一月から国内ワラントの発行が解禁され、さらに昭和六一年一月一日から海外で発行されたワラント証券の国内での売買が解禁された。
3 ワラントは、一定期間(行使期間)内に一定価格(行使価格)で、一定量(一ワラント当たりの払込金額を権利行使価格で除したもの)の新株を引き受けることのできる権利を表章する証券である。
ワラントの価格は、理論価格(パリティー)と、行使期間終了までの値上がりの期待等から生まれるプレミアムで構成されている。一般に行使期限までの残存期間が長い間は高いプレミアムがつき、行使期限が近づく程プレミアムは縮小し、理論価格に近付く。
ワラント価格の変動は、理論上、株価に連動するが、その変動率は株式に比べて大きくなる傾向にある。そのため、ハイリスク、ハイリターンの商品であるといわれている。
4 ワラントには、権利行使の期間があり、権利行使期間が終了した時にはその価値を失う。したがって、ワラントを購入した場合、権利行使期間内にワラントを売却するか、あるいは新株引受権を行使して新株を引き受けるかの選択が必要であり、権利行使期間内に売却もせず権利行使もしない場合、ワラント購入代金全額を失うことになる。
5 以上のように、ワラントの仕組みは一般投資家には分かり難いうえ、株式に比べて価格の変動が激しく、株式を売買するよりも少額の資金で多くの利益を得る可能性がある反面、場合によっては投資金額の全額を失うこともあり、ハイリスク、ハイリターンの金融商品である。
三 本件ワラント取引の勧誘行為の違法性と責任
1 一般に、証券取引は、市場の動向を確実に予測することは不可能であることから、利益を得ることがある反面、損失を被る危険性を伴う性質のものであり、証券会社の提供する情報やアドバイスも本質的に不確実な要素を含んでいるものであるから、投資家が証券取引をするにあたっては、基本的に証券会社の提供する情報やアドバイスを参考にしながら自らの責任で当該取引の危険性の有無、程度等を判断して行うべきものである(自己責任の原則)。
しかしながら、証券会社は、その有する証券取引に関する豊富かつ専門的な知識、情報を一般投資家に提供して証券取引を勧誘し、これを信頼した一般投資家が証券取引をすることにより、証券会社が利益を得るという立場にあるから、証券取引法三三条において規定されているように、顧客に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならないというべきであり、そのような観点から証券取引法等において各種の規制が定められている。そして、本件ワラント取引に即していえば、前記のとおり、ワラントは、比較的新しい商品で、一般投資家にはなじみが薄いうえ、仕組みが分かり難く、危険性の高い商品であることから投資家保護のため、証券取引法四七条の二(本件当時。現四〇条)においてあらかじめ顧客に対し、取引の概要その他の事項を記載した書面を交付しなければならないと定め、また、日本証券業協会制定の公正慣習規則第九号(本件当時)においても、あらかじめ顧客に対し、説明書を交付し、取引の概要及び取引に伴う危険に関する事項について十分説明するとともに、顧客の判断と責任において取引を行う旨の確認書を徴求するものと定めているものと解される。
したがって、証券会社としては、ワラントを勧誘する場合には、その危険性について正確な認識を妨げるような虚偽の情報又は断定的判断を提供してはならないことはもとより、投資家の判断を誤らせることのないよう投資家の職業、年齢、財産状態、投資経験等に照らし、ワラントの仕組みや危険性について相応の説明を行うべき信義則上の注意義務があるというべきである。
これを本件についてみるに、確かに、控訴人は、前記認定のとおり、本件当時六〇歳代で、年商約六〇〇〇万円の株式会社を経営しており、昭和五一年ころから株式の現物売買を継続的に行ってきたものであり、その取引態様は、主として短期売買による譲渡益を得ようとするもので、いわゆる客注が多く、証券会社の勧誘を断ることもあったことに照らすと、投資家としてかなりの経験、知識及び判断力を有していたものといえる。しかし、株式の現物取引については右のようにいえても、控訴人は、ワラント取引は初めてであり、本件以前にワラントに関する知識を有していた事実を認めうる証拠はないことに照らすと、被控訴人が、ワラントに関する知識に乏しい控訴人に本件ワラントを勧誘するに際しては、特にワラントが株式に比較して価格の変動が激しく、短期間で大きな利益を得ることがある反面、大きな損失を被る危険性もあること、また、権利行使期間内にワラントを売却するか新株引受権を行使しないと無価値になるが、たとえ権利行使期間内であってもワラント発行会社の株式の時価が行使価格を下回れば、権利を行使するメリットはなくなること等について具体的に説明する義務があったというべきである。
しかるに、控訴人の担当者であったBは、大和ハウス工業ワラントを勧誘するに当たり、電話による勧誘をしているが、事前に説明書を交付することもなく、しかも、前認定のとおり、ワラントについてハイリターンであることを強調した通り一遍の説明をしただけで、その危険性については特に説明しなかったものであり、その後のワラント取引の際にはワラントについて何らの説明もしておらず、Bの後任であるCも同様である。
もっとも、控訴人は、大和ハウス工業ワラントを購入した後、ワラント取引説明書を受け取っており、また、ワラント取引の都度、行使期限の記載されたワラントの預り証を受け取っていることが認められる。なるほど、右ワラント取引説明書には、前認定のとおり、ワラントの危険性についての記載があることは認められるが、全般にワラントの知識がない者が一読しただけでは理解が困難な専門的な内容であり、仮に控訴人がこれを見たとしても必ずしも十分に理解できたとはいえないというべきである。また、本件丸井ワラントまでの預り証に記載された行使期限は、行使期限の文字はカタカナで、それに引き続いて数字が記載されているだけで何の説明もなく、分かりにくい記載であるから、これ又控訴人が理解できたとはいえないというべきである。
以上によれば、被控訴人の被用者であるBにおいて前記の説明義務を尽くしていない違法があるというべきである。したがって、Bの勧誘行為は不法行為に該当し、被控訴人は、民法七一五条に基づく損害賠償義務がある。
2 ところで、控訴人は、平成二年三月始めころ、「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」を受け取り、丸井ワラントに五〇〇万円以上の時価評価損が出ていることを知り、右書面の裏面に記載されたワラントについての説明及びワラント取引説明書を読み、さらに、ワラント価格の計算方法が分からなかったので被控訴人に電話して問い合わせていること、その後も三か月毎に「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」が送付されてきて、控訴人は、丸井ワラントの時価評価損が増えていることを認識していたこと、控訴人は、Cから本件一〇銘柄ワラントの購入を勧誘された際、「ワラントは紙屑になるのでしょう。」などと述べたが、Cから「その危険はあるが、相場全体が戻り始めたときに投資効率としては高いのではないか。」と勧められ、購入することにしたこと、本件一〇銘柄ワラントの預り証には、「新株引受権の権利行使期限を過ぎますと、証券は無価値となり、消却されます」と記載されていること(前認定)等に照らすと、控訴人は、ワラントの仕組みと危険性を理解したうえで、本件一〇銘柄ワラントを購入することにしたものであり、本件一〇銘柄ワラントが無価値となったとしても、自己の責任として甘受すべきものである。
控訴人は、Cに断定的判断の提供(その具体的内容は第二の二1(二)(1)記載のとおり)、虚偽表示・誤導表示の使用(その具体的内容は第二の二1(三)(1)記載のとおり)及び強引で執拗な勧誘(その具体的内容は第二の二1(四)(1)記載のとおり)があったと主張し、甲A第四号証の記載及び控訴人本人尋問の結果中には、右各主張に沿う部分があるが、控訴人が本件一〇銘柄ワラントを購入するに至った経緯は、前記認定のとおりであり、証人Cの証言及び乙A第一三号証の記載に照らすと、控訴人の主張に沿う前掲各証拠はたやすく採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
四 損害
1 損害額
控訴人は、前記認定のとおり、本件丸井ワラントを一四一四万六三〇〇円で購入したが、売却あるいは権利行使することなく権利行使期間が経過し、無価値となったから、控訴人は、購入代金相当額の一四一四万六三〇〇円の損害を被ったものと認められる。
2 過失相殺
控訴人は、会社の経営者であり、かつ、長年にわたり株式の現物取引をしてきた経験があるのであるから、Bから不十分ではあるものの、ワラントは株式より値動きの大きい商品であることを告げられ、さらに、大和ハウス工業ワラントを購入した後、ワラント取引説明書の交付を受けたことにより、これを熟読し、理解できない点はBに問い合わせるなどしてワラントの仕組みや危険性について理解することが可能であったこと、さらに、平成二年三月以降は、ワラントの時価評価が通知されてきており、損失が増えていることを認識していたのであるから、平成五年一二月の権利行使期間内にワラントを売却する等し、損失の拡大を防ぐことも可能であったこと等本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、前記損害額につき七割の過失相殺をするのが相当である。
そうすると、右過失相殺後の控訴人の損害額は、四二四万三八九〇円となる。
3 弁護士費用
本件事案の内容等諸般の事情を考慮すると、本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては、四〇万円が相当である。
4 付帯請求
付帯請求の起算日は、損害発生時であると解されるところ、本件丸井ワラントについては、その権利行使期間である平成五年一二月七日の経過により損害が現実化したものというべきであるから、同月八日が起算日となる。
五 結論
よって、控訴人の本訴請求は、損害賠償金四六四万三八九〇円及びこれに対する平成五年一二月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであるが、その余は理由がないからこれを棄却すべきところ、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六七条、六一条、六四条を、仮執行の宣言につき同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中田耕三 裁判官 高橋文仲 裁判官 角隆博)